さくさべ坂通り診療所の看護師になって3年。患者さんに教えられることがたくさんあります。日々、ショックと発見の連続です。
ここへ来る以前、私は病院の訪問看護部に勤務していました。患者さんは慢性疾患や脳梗塞の病後のリハビリなどのために訪問を望んでいる方々がほとんど。がんの患者さんもいましたが、さくさべ坂通り診療所で訪問しているほとんどのケースとは違い、何年単位で生きられる方たちでした。
仕事はまず退院してからの家での生活環境を整えるため、退院調整からスタートします。もちろん患者さんの持っている残存機能を活かして、いかに日々楽しく暮らせるように環境を設定するかも大切にしていました。しかし、どちらかというと家族の介護負担を軽減するにはどうしたらいいのかという視点に重きが置かれていたように思います。
その上、その頃の私は患者さんや家族の方に「家での生活では何を補ってもらったら、生活しやすくなりますか」と相談することもなく、退院時にはギャジベッド、ポータブルトイレ、車いすの3点を必ず用意してもらっていました。うちに帰るには、この3点セットは必須アイテムだと思い込んでいたからです。
でも、患者さんもご家族も、プロの言うことだからと従ってくれる。一事が万事で、何事につけ「こうしましょうよ、ああしましょうよ」と、患者さんの生活を看護師である私がコーディネートとしてしまっていました。
在宅医療はチームで取り組むことが特に重要です。ところが、一人の看護師が自分流のやり方で引っ張っていくような形でしたから、私以外の人が訪問すると「Aさんはこう言っていました」と患者さんやご家族から突っぱねられてしまう。私以外の人は訪問しにくい雰囲気になっていました。
看護師以外にも、医師、ケアマネージャー、ヘルパー、PT(※1)、ソーシャルワーカー、OT(※2)など、多職種の人が関わっていくわけですが、どの人もみんなプロです。その人、その人の判断や考え方があります。だから、みんなが同じ方向に向かっていくのがなかなか難しい。そういう大変さがわずらわしくて、一人で何でもやってしまっていました。
でも、さくさべ坂通り診療所に来てから、患者さんがどうしたいのかに常に耳を傾けなければと思うようになりました。中心は患者さん自身なのです。それまで、多職種の人の意見が合わなかったり、方向性が違っているように思えたのは、実は患者さんが中心というところに目が向いていなかったからなのかもしれません。
患者さんが中心ということは、患者さんがやりたいと思うことの実現のためにどうしたらいいのかを常に考えて取り組んでいくということです。それならば、1つの目標に向かって、多職種の人が知恵を出して合っていくことができます。それぞれが専門性を活かした力を発揮していけます。それこそがまさにチーム医療なのかもしれません。
※1 PT:理学療法士のこと。身体に障害がある人に対して、主としてその基本動作能力の回復を図るために、補助的に電気刺激、マッサージ、温熱、その他の物理療法を行いながら、治療体操その他の運動療法を行うリハビリテーションの専門家。
※2 OT:作業療法士のこと。身体や精神に障害がある人が日常生活を送る上で必要な動作などを回復するために、生活活動、身体運動活動、手芸、工芸、その他の作業活動によって指導したり、援助したりするリハビリテーションの専門家。

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