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患者さんからの宝物
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≪おしっこ、うんこのことは説得より相談≫

 おしっこやうんこをどうやってするかは、人間の尊厳に関わる大切なことです。「死ぬまで自分でトイレに行きたい」「おむつはつけたくない」「尿の管は入れられたくない」と考える人は少なくありません。
 トイレには自分で行けるけれど間に合わないときがある、粗相をすると嫌だということで尿取りパットを当てる方は結構います。ところが、ご家族は「パットをするほどなんだから、動くのも大変だろう。なら、紙おむつにしたほうがいいんじゃないか」と拡大解釈してしまいがちです。本人の意に反しておむつを当ててしまった結果、患者さんが寝たきりになってしまうことは決して珍しいことではありません。
 高齢の女性の患者さんのCさんは退院後、今まで住んでいた家には戻らず、娘さんの家で暮らし始めました。その家は娘さんと旦那さんの二人暮らしで、Cさん本人が「この家がいい」と決めて移られたのです。Cさんは目が不自由でしたけれど、最初のうちは娘さんと遊びに出かけたり、毎日とても楽しく暮らしていました。トイレに行くのも壁伝いに歩き、何歩で行けるか数えて自分一人で行っていました。
 ところが病状がかなり厳しくなってくると、一人でトイレに通うのが大変になってきました。Cさんの負担を減らすため、娘さんはCさんを説得してパンツ型のおむつをはかせました。その日の夜からCさんは夜中じゅう起きて「ウーウー」うなるようになってしまったのです。布団に横になることもなく、座って「ウーウー」ため息のような声を上げる状態が毎晩続きました。家族も寝られなくなり対応に困ってしまいました。
 ある日、娘さんやその旦那さんも交えていろいろな話をしていたとき、Cさんが「トイレに行きたい」と言ったのです。私は「いいよ。行こう」と行って一緒にトイレに行くことにしました。両手を持って、「1、2、1、2」と声をかけて誘導すると、Cさんはトイレに行けたのです。「ハイ、座って」と言ったら、便座に座ることができました。部屋にも「1、2、1、2」で帰ってくることができました。
 そのとき娘さんの旦那さんが「お母さん、ごめんなさい。トイレに行くときは言って。僕が連れて行くから」と謝ったのです。Cさんはうつむいていましたが、ニコニコ笑顔を浮かべていました。娘さんでなく、その旦那さんが本気で誠意を込めて謝罪したことがCさんにはどんなにかうれしかったのでしょう。その日から夜中にうなることはなくなりました。もうあと何日かなという状態だったのですが、それから食欲も出てきて、お風呂にもヨッコラヨッコラ一緒に歩いて行って入れるようになったのです。
 ご家族は患者さん本人の負担を少しでも減らそう、いい状態を長く続くようにしようと、なんとか説得をします。でも、説得されても、患者さん本人は納得することはありません。本人がどうしたいのか、その気持に沿った手助けをすることが実は患者さんだけでなく、ご家族の負担も減らすことにつながるのだと思います。 トイレに行くのが大変になったときどうしたいのか、私は患者さん本人が元気なうちに聞いておくようにしています。そうした相談をしておくことで、慌てておむつを買いに走るということもなくなります。
 高齢の男性の患者のDさんはトイレに行くのは大変になっても、立っておしっこがしたいと希望しました。元気なうちに「どうやろうか」と相談したら、「助けを借りればベッドから立ち上がることはできる。立てばおしっこは出る」ということでした。そこで、尿瓶をベッドの柵のところにぶらさげて、それを使って用を足すことに決まりました。
 尿取りパットを使っても、自分で取り替えるのなら、トイレに行っているのと変わりないと考える方もいます。人に取り替えてもらうのは嫌だけれど、自分で腰を上げてパットを付けて、汚れたパットは外してビニール袋に入れて、「これ捨てて」と家族に言うのであればOKというわけです。わざわざ医療用の尿器を買わなくても、花瓶やバケツなど身近にある自分の好きなものを選んで間に合わせることもできます。
 私の中には「こうしたらどう、ああしたらどう」というノウハウはたくさんあるのですが、あえて出さないようにしています。この患者さんとご家族はどんな自分流の方法を編み出すか、それを見るのが楽しみだからです。「ああ、こんなふうにするのもいいな」と、いつもそのアイデアに感動します。 
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